労働法は、他の法律分野と比べても一般条項が多く、解釈に
不透明な部分があると言われています。ある弁護士の見解で
は、労契法において見るだけでも、条文数が19条 (雑則除く
)に対して、一般条項が含まれる条文は半数近くに上り、その
ため裁判例や最高裁判決の積み重ねにより法解釈を埋めてい
くのですが、ある分野のすべての論点について過去の裁判例
があることは稀であり、また裁判例の中でも結論を異にする
場合も多く、どうしてもグレーゾーンが残ってしまいます、
とされています。
昨日、固定(定額)残業代は違法ではないが、労基法の算定
方法により清算されない場合は違反です、と書きました。
しかし、固定(定額)残業代制度は労基法において所定とさ
れる計算結果を下回らなければよいだけであり、差額清算を
都度行わなかったことのみをもって、制度すべてを無効とす
ることはないように思われます。
判例も日本ケミカル事件 (最高裁一小 平30. 7.19判決)では、
実際の割増賃金と定額残業代との差額清算を行っていなかっ
た事例について、差額清算を行わない場合であっても定額残
業代が有効となる場合もあることを事実上認めています。
もっとも、「雇用契約においてある手当が時間外労働等に対
する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用
契約に係る契約書のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働
者に対する当該手当に関する説明の内容、労働者の実際の労
働時間等の勤務状況などで判断すべきである」と判断してい
ます。
実際は、契約書の記載内容のほか、説明の内容の事情を勘案
して、使用者と労働者の間で合意がなされておれば、両者の
合意内容を尊重する、としています。
実務において、私は入社時に就業規則等(固定残業清算基準
などのドキュメント)に基づき、書面で清算法について説明
を尽くしてきました。書面でやりとりするのは、わが国の裁
判がドキュメント主義だからです。実務では、常に保守的に
対応していくことが無用の争いを避けることになります。企
業活動において、中途半端な対応をすれば、企業と社員双方
に不信感を募らせる原因となります。
当然、固定(定額)残業代の清算は、対象社員別に時間外労
働時間を管理し、毎月清算をおこなうという対応をしていま
した。清算実務は、ワークフローを使用して自動清算します
から、人事担当者の事務作業は不要です。
法律には、曖昧部分、いわゆるグレーゾーンが存在しますが、
実務ではなるべくグレーゾーンを避けておくことが賢明な対
応となります。一旦こじれると、労務問題となり、訴訟や組
合問題化する要因となります。経営者や人事部門の責任者は、
常に問題が発生しないように未然に防止することが求められ
ます。これができないと、ある企業では、私が退職した後、
労働組合が結成され、事業自体もうまくいきませんでしたが、
最終的に破産となりました。このようなケースは経営者、社
員にとってなんのメリットもありません。さらに数十億円ほ
ど出資していたベンチャーキャピタルとっては、如何ともし
難いことでしょう。
なんども言いますが、企業を成長拡大させる、あるいは株式
公開を目指す企業は、はじめから問題が起きないような体制
で法律を運用しておくことです。ソニーなどは、この基本が
徹底されている企業ではないでしょうか。私は、ソニー子会
社での経験でしたが、問題を起こさないように徹底した運用
をしてきました。他社へ転職しても同様に厳しい運用基準で
仕事をしてきましたし、それを受け入れてくれた経営者がい
る企業は成長と拡大を続けています。
固定(定額)残業制度を導入している中小企業では、そもそ
も残業が多い企業ではないでしょうか。参考図にもあるよう
に、追加で発生する時間外労働部分の賃金をサービス残業化
する意図が見え隠れしているように感じるのは、私だけでし
ょうか。
中小企業では、営業部門を除き定時退社する企業を2社ほど
経験しましたが、中小企業では固定(定額)残業制度の導入
よりも定時退社制度を運用していかれたほうがベストです。
社員は非常に効率的に仕事をします。社長以下役員なども、
特別な事情がない限り率先して帰宅し、社員が帰宅しやすい
環境を整えているのが特徴でした。
資料:弁護士法人ネクスパート法律事務所
*クリックで拡大