ソニー子会社の立ち上げと株式公開を目指した企業の立ち上
げの違い、答えは、簡単です。企業経営の基礎作りが違うこ
とです。株式公開を目指している企業では、そもそも経営の
基礎がないのです。そこに株式公開のための組織構築、機能
構築をしようとするものですから、当然、人に無理が来ます。
経営者、管理職、従業員は、どちへいっていいのか迷い道状
態でしょうか。
證券会社や監査法人のレクチャーを受けながらやろうとする
のですが、いかんせん経営の基礎がないために、皆、右往左
往しているようでした。では、経営の基礎とはなんでしょう
か。経営者は、経営ビジョン(かしこまったものでなくてよ
い)を語り、経営における権限移譲ができており、各部門や
課で事業計画を策定できている。内部管理体制が上場レベル
でなくとも、その機能の一部ができていること、さらに、そ
れらを運用できる人材が十分でなくとも在籍していることで
しょうか。
株式公開を目指す企業には、その前提となる企業経営に課題
があるということです。ソニー子会社は上場していませんか
ら、会計上の連結はありますが、その他の事業運営は独自性
が保たれていました。それでも経営者をはじめ管理職は、ソ
ニー本体やその他の関連会社で仕事をしてきていましたから、
仕事をおこなうレベルや組織を管理していく機能を理解し、
そのうえで各種機能を構築していくことができる人たちでし
た。いわば事業を運営できる実務のプロがそろっているので
す。だからでしょうか、入社早々、事業計画を作る(私は見
様見真似の手伝いだけでしたが)など、スタートからして他
社と違います。
いろいろな書類の保管ひとつでも厳しく指導されました。理
由は、その後わかりましたが、内部監査時に必要な書類を適
宜取り出して内部監査人に渡す必要があるからです。日常業
務すべてで徹底されていました。当然、仕事そのものにも細
かな対応が求められます。経理部門は、立ち上げですから現
場とのやりとり、伝票などの記帳、予算管理、決算と一番忙
しい部署でした。このような果敢な挑戦状態ですから、忙し
くてやめる社員も多く、苦労して事業の基礎を作っていまし
た。
このような仕事をしている企業からみれば、株式公開を目指
す企業の仕事が、いかに甘いか、もろみえでした。いわゆる
上場のための付け焼刃仕事なのです。当然、経営者も勉強不
足、管理職は社員に毛が生えた程度、社員の仕事はざるのよ
うなものだったでしょう。事業計画を作れる管理職はおらず、
あたふたするだけでした。なかには、経営者だけが大手企業
の役員経験者だったことから、ひとりで事業計画をつくりプ
レゼンをこなし、多額の出資を得ていましたが、組織機能を
作れる管理職がいないものですから、経営者の孤軍奮闘(超
ワンマン経営)もむなしく倒産しました。
会社の基礎を作る仕事だけでもソニー子会社では、5年ほど
かかったでしょう。それでもまだ十分ではありませんでした。
どうにか形ができたといったところでしょうか。そのような
状態までもってこれたのは、実務の専門家といえる人たちが
在籍して、私のような無能な社員を育成してくれたからです。
企業の成長とは涙ぐましい戦いの連続です。それを支える経
営者と管理職の存在なくして、とてもできないことだ、と確
信しました。
少し事業が好調だからといって、簡単に株式公開を目指すな
ど愚の骨頂です。経営者が有能になり、有能な管理職を育成
し、そのものとに有能な社員がいてはじめて日本企業は成り
立っています。株式公開を目指す企業に限らず、どのような
企業においても、今の時代、今一度、足元をみつめなおすこ
とをお勧めします。