プライドをかけた戦い
あっせんや調停での交渉がうまくいかないということがあり
ます。交渉が進まない原因のひとつには、双方のプライドと
いう感情的なものがありそうです。私は、経営者へ譲歩する
必要があると根拠を示して、説得しますが、プライドが高く
頑固な経営者はそれでも突き進むことを選択します。ここに
至っては第三者的な立場から解決策を提示してもらうしかあ
りません。そこで取るべき方法が、「労働審判」と「訴訟」
になります。どちらも裁判所へ手続きをすることになります。
労働審判と調停の違い
昨日書いた調停、あるいは労働審判と訴訟は、同じように裁
判所が関与するものですが、解決策の提示の有無という点に
おいて異なります。調停はあくまで当事者の協議をサポート
するのが目的であり、調停委員から積極的に「この解決策で
どうですか」という提案はありません。また、当事者双方が
「この内容で応じます」と合意して初めて紛争が解決するこ
とになります。
これに対して労働審判と訴訟は、裁判所から「これでどうで
しょう」という解決案の提示がたいていあります。
例えば 「解決金として100万円を会社が負担することでどう
でしょうか」といったものです。この提案に双方が応じれば、
手続きとして終了します。いわゆる和解でしょうか。
いずれかが拒否した場合は、最終的には審判あるいは判決と
いう形式で、当事者の意向に関係なく事案が終了することに
なります。なお、労働審判でなされた審判に不服があれば、
訴訟に移行して、最終的に判決で終わることになります。
労働審判と訴訟の相違い
労働審判と訴訟との相違はどのようなところでしょうか。先
ず、労働審判は、労働事件に限ってスピード感を持ってざっ
くりと解決しましょうというものです。労働事件の訴訟では、
多くはかなり時間を要します。私が経験した事件では約2年
ほどかかっていましたが、会社側の完全敗訴でした。1年以
上の期間を要するケースは珍しくありません。
当初は戦うモチベーションが高い経営者でも、訴訟をやり抜
くなかで労働問題の本質を理解できるようになるものです。
しかし、その後は、労働組合(この場合、合同労組)との団
体交渉と争議行為の繰り返しに、どうしようもないと観念し
ていました。自らがまいた種だからでしょう。数年後、業績
不振からM&Aをおこない事業を売却しました。
労働審判はスピード重視
労働審判は、基本的に3回以内の期日という短期間で問題を
終了させるために用意された制度です。労働審判ではスピー
ド解決が重視されるため、訴訟と比べて簡略的な主張を述べ
て解決案を提示してもらうことになります。その意味では、
最初のプレゼンの事前準備がすべてを決すると言えそうです。
労働審判は、不当解雇の事案でよく利用されているようです。
残業代請求といった詳細な事実認定を必要とするものについ
てはあまり利用されていないと聞きます。
労働審判を申し立てる側は、たいてい徹底的に争うというよ
りは金銭的に早期に解決したいという意図を持っています。
不当解雇で争う場合、「職場に戻せ」という請求をしつつも
最終的には解決金を前提にした退職で終了するケースが多い
といわれています。社員としては、いったん解雇された職場
で勤務したいという気持ちにならないからでしょう。弁護士
の印象では、労働審判の7割程度が合意で終了しているよう
です。労働問題がこじれた場合、可能な限り、労働審判制度
で対応しておくことをお勧めします。なぜなら従業員側から
訴訟を提起される場合、会社側が不利な状況が多いからです。
私であれば、退職勧奨をおこない説得してみることも選
択肢として考えるでしょう。言葉はよくありませんが、金持
ち喧嘩せずの対応も、ときと場合によっては必要と感じるか
らです。