中小企業に限らず大企業であっても採用活動で苦労して
いる企業は多いものです。私が在籍していた企業で、もっと
も出入りが激しい、いわゆる入社と退社が多い企業は不動産
業でした。
理由は、入社は簡単、仕事は強烈だったからです。人が足り
ませんから余程のことがなければ採用です。やらせてみなけ
ればわからないとばかりに、仕事をさせていました。当然で
すが、入社1か月以内の退職率が70%ほどあったのではない
でしょうか。社会保険の手続きをする前に、いなくなってい
るといった状況でした。そのためか、入社三か月間は社会保
険加入なしの状態でしたから、私は驚きました。
株式公開を目指していましたから、この状態は改善しなけれ
ばなりません。入社後、しばらく様子をみていましたが、一
筋縄ではいかない感じでした。
このような状況は、中途採用活動から改善しなければな
りませんが、採用活動において仕事内容を詳しく説明し、現
状の厳しさを理解できるようにしていきました。ただし、こ
の対応では、採用人数を確保することがむずかしくなります。
矛盾する状況、悪循環、なかなかうまくいかないのです。採
用活動から社員の定着までがうまくいかない企業の典型だっ
たでしょう。
そうした矢先、社長から新卒採用を進めていこうという提案
があり、同時に入社後しっかりと研修をやる、という決意を
聞かされました。
実際、最初の新卒は30名ほどでしたが、研修費だけでも約
1,000万円をかけましたから、その本気度がわかります。
実務というものは、矛盾との闘いです。法律どおりにいかな
い不安と、将来をどのように変革するかという二律背反との
闘いです。矛盾を指摘するだけではなにも変わりません。常
に、どのうように実行するかが問われます。経営とは、まさ
に決断と実行だ、と目の前で教えてもらったようなものです。
新卒者採用で人員を確保しながら、中途採用では、厳選しな
がら採用することになりました。時間はかかりますが、徐々
に企業体質を変えていくことができ、社会保険の問題もクリ
アしていきました。書くことは簡単ですが、この間、4年ほ
どかかっています。それでも社長の決意は固く、やると決め
たことをやり抜いたからできたことでしょう。とても、私一
人ではでっきなかったことです。私がやってきたことなどた
いしたことではありません。私ができることは、このような
経営者の決意を補完する仕事ができることくらいでしょう。
経営者の決意は、採用活動に限らず、すべての企業活の
中に現れてきます。この執念があるからこそ、現在では約一
万名弱の従業員規模になっているのではないでしょうか。
企業を成長させていく、若き創業経営者(当時36歳)の気
迫とはこのようなものなのか、とその一端を知ることができ
ました。企業規模を拡大させていくという意思や迫力は、あ
くまでひとりの人間のなかにしかありません。企業が大きく
なるのも、現状維持するのも、あるいは倒産するのも、厳し
いようですが、経営者ひとりの決意と実行力にかかっている
のです。