不正を多くみてきたわけではありませんが、それでも不正が
発生する土壌、いわば会社内の統制機能のレベルの優劣があ
ると思っています。
私がみてきたところでは、社員が巧妙な手口を使うというよ
りは、会社側の統制機能のレベルが明らかに低いものでした。
基本的な簡単なことができていないのです。そこをつかれて
不正行為がおこなわれていました。主体となる社員は、比較
的社歴が長い管理職でした。
なぜ不正が発生するかについては、不正のトライアングル
と呼ばれる仮説があります。アメリカの犯罪学者であるクレ
ッシーが唱えたものです。
この仮説は、客観的な状況として「動機」(不正行為を実行
する動機の存在を示す主観的状況)、および「正当化」(不
正行為を正当化する主観的状況)と、「機会」(不正行為の
機会を与える客観的事象や状況)の3つがそろったときに、
不正が発生するという仮説です。
【不正のトライアングル】
私がみてきた会社の事情では、不正をおこなった当事者は、創
業時から経営者とともに仕事をしてきていたようですが、企業
が成長し、業績が向上にするにつれて、社長は高額な報酬をも
らっていると錯覚し、これまでの自分の功績に対して自分の給
与が低いと思っていたふしがありました。
しかも、ギャンブルや女性にお金を使い借金がある状況だった
ようです。このような場合、不正が発生する「動機」が存在す
ることになります。
このような状況のなかで、
① 架空発注を繰り返しおこなっている。
② 正式な書面による受発注が行われているのですが、部長とい
う発注権限者ですから、発注交渉や、架空発注は簡単におこな
われている
③ しかもジョブローテーションがなく、この部長以外は業務内
容がわからないうえ、職務分離や相互けん制機能が機能してい
ない
といった客観的な状況があり、不正を行う「機会」が存在して
ました。
このような「動機」と「機会」に加えて、自己の行為を「正当
化」する根拠としては、この金銭は自分のこれまでの貢献から
すれば当然だ、という主観的な状況を持つことで「動機」、
「機会」、「正当化」のトライアングルがそろったことになる
ようです。
この結果、不正が発生するというものです。
この不正のトライアングル仮説に基づいて、「動機」、「機会」、
「正当化」の3つの視点で不正事例の発生原因を整理すると理解
しやすいのかもわかりません。
最近の不正・不祥事関連の調査報告においては、不正の発生原因
を、この3つの視点から整理されて発表しているケースが数多く
みられるようです。
このような不正行為の事実から分析をし、結果を発表する前に、
経営者は有効な内部統制機能を構築することが仕事なのです。
経営する企業で不正が発生すれば最終的に経営者が責任を取るの
ですから、本来であれば、経営者には、会社と自分を守るためと
いう最高の動機があるのですが、有効な内部統制機能を構築する
ことなく、社員にいいようにされてしまいます。
実効性がない内部統制(お飾り)では、不正行為などいとも簡単
におこなえることを経営者は理解しておくべきです。
創業経営者でワンマン経営者というべき強そうな人間でも、この
ような不正がおこなわれるという現実をみることができていませ
んでした。その意味では人間を信頼するお人好しなのです。
不正だけが原因ではありませんが、その後、企業は傾き、そして
売却されました。