むかし、役員と一言でいわれましても、どの役職が役員なの
か、私にはよくわかりませんでした。
役員に定義があるのでしょうか。
一般的には、会社役員とは、経営方針を決定し、業務や会計
の監査などを担う立場の人を指すようです。
もっとも、会社法で定義されている会社役員は、取締役、会
計参与、監査役の三役です。
そのため企業では自由に、常務や専務、執行役員など任意で
設置することができます。
また、役員等の場合には、このほか「執行役」「会計監査人」
なども含まれます。
企業内で役員という言葉を使うとき、このような厳格な定義
に基づいて使っているかというと、取締役や監査役くらいの
範囲で使用しているように思えます。
執行役員や理事などは、私たちの時代は、役員(取締役とい
う意味で)とは呼んでいなかったように記憶します。
会社法と日常的な言葉の使い方の違いが、日本企業において
監督と執行が未分化になる原因だ、と私は考えてきました。
日本企業において執行役員が生まれたのは、 1 9 9 0年代
の後半でしょうか。
これまでは役員といえば取締役のことを指していました。
執行役員制度が誕生した背景には、監督と執行を分離させる
とともに、増え過ぎた取締役の数を減らすことで、意思決定
のスピードを上げる目的がありました。
執行役員とは会社法によって定められている機関や役職では
ありません。
企業が自分たちの目的や方針によって、制度化し、運用する
ものです。
他方、取締役は、会社法の定める株式会社の機関です。本来
は決して処遇や待遇のことではありません。
株主総会や取締役会と同じ、 ひとつの機関にすぎません。
取締役を機関だといわれると、なんだか違和感を感じますが、
会社法では、会社の意思決定や業務執行を行う権限が与えら
れた地位であり、機関と呼んでいます。
本来、取締役は単なる待遇や役職などではなく、会社法で定
められている機能的な役割だということです。
私たちの時代、70年代や80年代ごろ、日本企業では、取
締役は出世競争のひとつのゴールであり、取締役にまで上り
詰めることができれば、高い地位と身分、そして報酬 が 約束
されていました。
取締役を機関と考えることもなく、社員が頑張って目指すべ
き待遇として位置づ けていました。だからこそ、社員数が増
えれば増えるほど、取締役の数も増えていくという結果とな
りました。
このような状況で取締役は、監督の責任だけを担うわけでは
なく、従業員である本部長や部長と同じように、業務執行を
担う取締役が普通でした。
このことが、日本企業において監督と執行の分離が進まない
大きな理由でした。
代表取締役の監督などすることもなく、代表取締役といっし
ょになって業務執行にまい進していたのです。
執行役員制度は、この二つの機能の分化を図ったものでした
が、その目的を達成できたのでしょうか。
答えは、残念ですが、できなかったということになるのでし
ょう。
実際、取締役の数が減った企業は多いようですが。取締役と
執行役員をトータルした人員数では、変わらないどころか増
えた企業すらあるようです。
それでも取締役と執行役員間で、役割の整理が進んだのであ
れば問題はないのですが、実態は取締役から執行役員に名前
を変えただけであり、監督と執行の分離のみならず、意思決
定のスピードアツプなどができているとは思えないのが、現
状ではないでしょうか。
こうみると日本の経営陣、あるいは企業社会は、言葉を変え
ることは上手なのですが、実態はなにも変わらないという、
本来の機能を骨抜きにする名人なのかもわかりません。
政治の世界でも、どうようなこを繰り返しているようで、日
本人の得意技とでもいうのでしょうか。