横領事件がメディアで報道されるますが、その横領額に
驚きます。その額が多額で、私には、どうしてこんな金額を
横領できるのか、といつも不思議に思ってしまいます。
ある上場子会社の親会社における資金管理の過程で、子会社
の取締役兼業務部長が、約10年以上にわたり、総額1億5,000
万円を着服していた事実が判明しました。
親会社の従業員が、インターネットバンキングで子会社の預
金残高を確認したところ、帳簿残高と約1億5,000万円の不一
致があることが判明しました。
当該取締役に、この点を問い合わせて資料の提出を求めたと
ころ、今対応できないなどの言い訳がされたようです。
このためすぐに社内調査をはじめたところ、当該取締役が以
前提出していた銀行預金の残高証明書が偽造されていたこと
が判明しました。
会社は、本人へ直接ヒアリングをおこなうと、過去10年以上
にわたって現預金から不正に金銭を着服していたことおよび
事実を隠ぺいするために残高証明書等の偽造をしたことを認
めています。
不正行為の手口は単純でした。調査報告書によれば、仮に 1,
000万円の資金をA銀行の口座からB銀行の口座へ移動させる
場合、通常、1,000万円の出金依頼票と1,000万円の送金依頼
票を同時に提出して送金依頼を行います。その伝票に基づき1,
000万円をコンピュータ会計(振替伝票)で仕訳を入力する
ことになります。
今回の事件では、当該取締役が1,000万円の資金をA銀行の口
座からB銀行の口座へ移動させるとき、1,000万円の出金依頼
票と900万円の送金依頼票を差し出して、差額である100万円
の現金交付を受けて着服していました。
この取引に伴い帳簿残高と預金残高に100万円の差異が発生す
ることになりますが、当該取締役は、当初は親会社に対する
買掛金の支払において、その一部を小切手を振り出すことで、
実際に支払われる時期を遅らせて、決算期では、会計帳簿上
の預金残高と実際の預金残高を一致させるように調整してい
ました。
他方、帳簿残高と実際の預金残高の差異が大きくなってくる
と、このような方法では隠し切れなくなってくるものです。
このため当該取締役は、銀行の残高証明書等を偽造すること
で横領が発覚しないようにしていました。
横領がおこなわれる企業に共通することですが、不正を行う
機会があったのは、経理業務の全般を取締役兼務部長である
権限者が行っていたことです。
この企業では、以前におこなわれた内部監査で経理規程がな
いことが指摘され、その後、経理規程は策定されたようです
が、仏作って魂入れず、の格言通り、運用に変化はありませ
んでした。
これも多くの上場企業でみられるケースではないでしょうか。
内部牽制などが規程どおり行われていなかったのです。
これもよく聞く話ですが、人員不足に起因するものといわれ
ていますが、そもそも内部統制ができない企業が上場をすべ
きでないのです。
このような不祥事を発生させる企業の経営者ほど事例から学
ぶことをしません。
ですから、また違う企業で同様なことが発生します。
上場はステータス、資産が増える程度の認識ではないでしょ
うか。これでは株主はたまったものではありません。
不正が発生するたびに内部監査の指摘事項として規程の整備
や内部牽制の不備などが指摘されますが、内部監査は、文書
作成が目的ではありません。
企業は、監査で指摘された事項について、そのとおりに運用
改善を図って行いくだけです。
私のようなめんどくさがりやは、残高証明書の改ざんだけで
相当な作業工数がかかるでしょうから、鼻からやる気が起き
ませんが、横領などをする人間は、根気強く、このような作
業ができます。
また、経営者が資金管理に無頓着であれば、経理担当者がい
いように横領などをおこないますが、それでも経営者は、通
帳で預金残高のチェックは必ずおこなっておくことです。
しかも、必ず抜き打ちでやることです。
それだけでも、牽制になるからです。