労働災害における補償は、労災保険制度によって、労働者の業
務上の事由または通勤による労働者の傷病等に対して必要な保
険給付が行われます。
その費用は、原則として事業主の負担する保険料によってまか
なわれています。
労災保険は、原則として 一人でも労働者を使用する事業は、業
種の規模の如何を問わず、すべてに適用されます。
ただし、労災保険における労働者とは「職業の種類を問わず、
事業に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されてい
ます。 労働者であればアルバイトやパートタイマー等の雇用形
態は関係ありません。
私が経験した中小企業で労災保険に加入していないケースはみ
ませんでしたが、一人でも労働者を使用する事業は、労災保険
の加入義務があり、労働保険料が徴収されます。
労災保険は、政府労災保険と呼ばれるように国が管掌する保険
です。労働基準法(労基法)により義務づけられている事業主
の労働災害補償責任の履行を担保することを目的とする保険で
す。
その根拠は、労働者災害補償保険法(労災保険法)第1条(目的)
にありますが、そのポイントは、①労働者災害補償保険法にも
とづく政府管掌の保険であり、②事業主が被用者に対して負う
補償責任をカバーすること、③ほとんどすべての事業に自動的
に成立される保険という3点です。(強制適用)
事業主(経営者)は、労災保険に加入しているので、万が一労
災事故が発生しても補償など問題ないと考えているケースを目
にしました。
労働災害による事故がないときには、問題ないと考えていたケ
ースでも、ひとたび事故が発生するといろいろな問題が露呈し
ます。
その一つは、労災保険から支払われる給付は、労災で被った損
害すべてを補てんするには不十分であることも多いことです。
特に、会社に安全配慮義務違反や使用者責任が問われた場合、
業務中や通勤中に第三者からケガを負わされたような場合は、
労災保険による給付とは別に、会社や第三者に対して損害賠償
請求ができる可能性が高くなることです。
一般的に被害者が会社に対して請求する賠償額は、交通事故に
おける算定方法を基礎にしています。労災事故も交通事故も、
過失による事故という点において共通性があるからです。
会社への請求では、労災保険で填補されない慰謝料や将来の収
入補償としての逸失利益が主たる請求内容になります。
労災事故の場合、死亡によるケースが最も損害額が大きくなる
とは限りません。
例えば、頭を損傷して意識を喪失したようなケースでは、平均
余命までの医療費や介護費用も損害となります。将来の介護費
用として、日額 8,000円を平均余命までの日数で乗じて請求さ
れることもあり、これだけでも数千万円の損害として請求され
る可能性があります。
事故時のけがなどの状況だけで損害額を判断することはできま
せん。死亡事案の場合における請求権者は、もちろん相続人と
いうことになります。
大手企業では、労災保険に上積せする任意保険に加入していま
す。
私は、中小企業に採用されると、先ずこのような任意保険を付
保しているかどうかチェックします。
私が在籍した中小企業やベンチャー企業では、労災上積せ保険
に加入していませんでした。
この保険、比較的費用が安くて労災事故が発生し場合に、従業
員の治療費等を政府労災に上乗せする保険です。
会社の福利厚生をより手厚くしてくれる保険で、次の補償をし
てくれます。
・死亡/後遺障害保険金
・入院給付金
・通院給付金
また、通常の政府労災は、通常は経営者や会社役員は対象外に
なっていますが、法定外補償保険は補償対象となります。
私は在籍していた1社だけ、業績悪化からこの保険の加入を躊
躇しました。
私の退職後、業績はさらに悪化し、社員の一人が業務中に死亡
する事故が発生しました。
私の退職後の事故でしたが、私の人生のなかで悔やまれる事故
でした。
今でも、心の中で自分の姿勢を恥じています。
仕事とは、やるべきときに、確実にやらなければならないこと
を学ばせてもらいました。
人生における大きな失敗でした。
創業経営者は、創業期を共に支えてくれた社員を失ったのです
から、どういう思いをされたのでしょうか。
経営とは、誠に残酷です。