信用の蓄積の点では、ソニーの子会社の立ち上げは、ソニー
の子会社だったことで、子会社の実態は別としてすでにある
程度の信用力を備えていた。このおかげで仕事が取れていた
ことは紛れもない事実である。
一方、ベンチャー企業は、信用の積み重ねが必要になること
は論をまたない。情報配信事業をおこなっていたベンチャー
企業は、まさに経営者を筆頭に毎日営業活動に励み、ひとつ
ひとつ信用を積み重ねていた。その結果、驚くようなところ
と取引がすることができるようになり、少しずつではあるが
売上があがっていた。「血のにじむような努力」とは、この
ようなことを言うのだろう。真面目な経営者だった。
ファイナンスをおこなわず着実に売上を伸ばしていた。最終
的には、当初計画のように上手く事業目標を達成できなかっ
たことで事業の売却をおこなったが、それまでの着実な事業
展開と、多くはないが確実に利益を出していたことで、この
企業は相応の評価を得て円満な売却にいたった。
しかも現在は、上場企業傘下でなお確実に成長している。ま
た、株式公開はできなかったものの企業売却により、ベンチ
ャーキャピタルは、キャピタルゲインを得ることができたし、
創業者は同様にキャピタルゲインを得ている。
このように事業売却ができたこと自体が、発展段階を真面目
におこなってきたことと、経営者自らの営業活動で信用を積
み重ね着実な売上を確保していったからである、と信ずる。
他方、ファイナンスばかりでなんとか事業運営を乗り切って
いるベンチャー企業では、「カンフル剤」にしかなっておらず、
事業展開は一進一退であった。結局、黒字化の目途が立たず、
倒産はしなかったが、事業は、二束三文で売却された。
この企業、上場したことで多くのベンチャーキャピタル(出
資者)や創業者は、キャピタルゲインを得ているが、公開で
株をもった一般投資家は高値で取得し、しかも暴落し、相当
な額の損失を被ったことだろう。
資金が枯渇するたびに、大手企業から多額の資金調達(第三
者割当増資だが)をおこなっていたが、私の退社後、事業運
営は、創業経営者から出資会社から入ってきた人間に変わっ
たが、結果は、もともとビジネスそのものに問題があったた
め、経営者を変えてもうまくいくはずはなかった。
良い技術だといわれていたが、マスコミなどの報道でかさ上
げされており、上場以前に本質的な問題があったと思われる。
痛い目をみたのは、多くの株主だった。
経営者が聞く耳をもたないタイプであり、研究開発事業の真
の問題や課題を捕まえきれていなかった。この経営者自身が、
もともと米国の某有名IT企業出身のエンジニアとして社会的
評価を得ていたことも、問題の本質から多くの情報を遠ざけ
た。
英語を操りなにごとにつけ、常に自ら意思決定して行動して
いた姿が、今も瞼に映る。
新規事業をぶち上げるが、企業業績の流れは、毎回同じパタ
ーンの繰り返しになっていた。
なかなか本質的な問題にまでたどり着くことはむずかしいも
のだ、と考えさせられた。
経営者以外は、案外、企業内部の課題や問題を理解している
のだが、経営者の資質によって経営者以外の人達は寡黙を貫
くものだ。
信用の蓄積とは、真逆の経営だった、と今でも感じる。