企業というところは、稼ぐ人と動かす人、両方が欠かせない。
人が動くのは、指示されたからではなく、本人自身が動こう
という心を持つからだ。
そして上司の愚直なまでの真面目さや最後まで決してあきら
めない姿勢に感動し、 頭で理解し、心で納得し、体で行動す
る、というプロセスができあがるのだろう。
また、上司が親身になって話を聞いてくれることで、部下は
育ってくる。
会社が組織として成長していくためには、(稼いでいなくとも)
面倒見のよい人の存在は重要なカギを握っている。
ソニー子会社時代の上司や先輩は、まさにこのようだった。
経営管理の側面からみれば、管理する人は、一般社員ができ
ない仕事をする人であり、働き者でなければならい。働き者
とは、管理する人がよく働くので周りの社員が楽になるとい
うことである。
また、管理する人は、能率があがるように指示を出すので、
社員が働きやすくなることだ。
この点について、往々にして稼ぐ部門主体で企業運営をおこ
ない、管理部門については不要だという認識で事業運営をお
こなう経営者が結構いるものだ。
いわば稼ぐ部門主体主義(収益部門中心主義)である。その
反面、資産管理や労務管理ができていないことを声高に叫ん
でいるという自己矛盾に陥っている。
当然だが、経営者はこれらの問題に自ら振り回されることに
なる。そして肝心な事業開発や研究開発の抜本的改革のチャ
ンスを失っていく。
稼ぐ人と動かす人の役割をよく理解できている経営者は少な
い。
「面倒見がよい人の存在」は、普通、なかなか理解されてい
ないところだ。
このような視点から経営管理を見ている経営者は、きわめて
少数だろう。
私は、人間関係が苦手なので意識してやってきたわけではな
いが、比較的やさしいタイプの人間なので寄ってきやすいの
だろう。
その点と人のよさから面倒見がよくなってしまった。
出世はしないが、会社の中で意外と重宝がられるし、組織運
営上、真の意味でこのタイプの人間が、人を動かすことがあ
ると信じている。
経営者は、このような人材を、少ないが探し出して、人のマ
ネジメントを担ってもらう必要がある。
人の課題は、ロゴス(理性)とパトス(感情)というテーマ
がつきものだ。
例えば、Aさんが言っていることは正しいと思うが、私はA
さんは好きでない、といったことが人間にはしばしばある。
もっとも、経営者が、パトスに飲み込まれていては、企業の
将来は見えてしまっているようなものだ。
人間は、やはり感情の動物だが、感情をコントロールできる
唯一の動物でもある。
経営者といえども人間だ。
このことが認識できるかどうかは、常に自分と真正面から向
き合って見つめておくことが必要だし、経営者の資質として
広くて深いテーマだ。