企業における業務は、可能な限りいろいろな部署を担当させて
いったほうがよいのですが、中小企業ではこれがなかなかむず
かしく、だいたい社員個人に仕事がついています。
社員が気に入っている仕事に関しては、その業務を自分だけに
しかわからないように抱え込もうとする傾向があります。自分
の業務の内容を社内で共有せずに自分にしかわからないように
して、自分がいなければ会社が困るという状況をつくりあげて
いきます。
これはこれで自らの生存を高める行為なのでしょう。しかし、
会社としては仕事が社員個人のなかに埋もれてしまっては、事
業を拡大させていく場合に障壁となってしまいます。
中小企業が成長しない背景のひとつには、このような実態があ
ります。
これが行き過ぎれば、社員はモンスター化して業務上の指示に
反抗したり、協力を拒否したり、自己中心的な要求を通そうと
することになります。
私が経験した中小企業では、このような社員が多かったと思わ
れますが、その原因をつくっていたのは、まぎれもなく経営者
でした。
このような事態を避けるために社員教育が必要になってきます
が、なぜ業務のローテーションしなければならないか、機会が
あるごとに指導していくことが求められます。
これを放置しておくと、社員による業務の囲い込みがおこなわ
れ、どうにもならない状態になってしまいます。
私は、このような状態になった社員へ指導をしていきますが、
十分話をしたうえで、社員が理解しない場合は、その社員を除
いて業務をまわしていくようにします。
当然、当該社員は、自分が無視された状況にあることに気づき、
私の話を受け入れてくれればチームとして仕事をしてもらいま
ますが、それができなければ、その状態を維持していきます。
我慢比べでしょうか。私の話を受け入れない社員は、だいたい
自ら退職していきます。会社の仕事というのは、すべての社員
が理解してくれているわけではありません。
そのために教育が必要になります。また、業務が拡大していく
からこそ、企業が成長することでジョブローテーションが
必要になってくるものです。
企業の成長を支えていくのは人(社員)なのですから、ジョブ
ローテーションは必然ということになります。
現在、大手企業では、ジョブ型人事制度の導入が進められてい
ますが、中小企業では、そもそもジョブ型人事制度なのです。
理由も簡単です。ジョブローテーションをするほど企業が成長
していないからです。
大手企業では、企業が職務(ジョブ)に適した人材を採用し、
その職務内容や役割、責任範囲、期待される成果などを明確に
定義して雇用する人事制度などとされていますが、よく考えて
みると、中小企業のように成長性が乏しく弱い企業だからこそ
導入する制度ではないでしょうか。
人件費も固定化できるし、成長余力が少ない企業にはピッタリ
です。
魅力があり、成長性がある企業では、ジョブ型人事制度を導入
する必要がありません。
もっとも、極めて少数の優秀な人材はそもそもジョブ型です。
ジョブローテーションは、成長性がない企業では、そもそも導
入できない機能です。効率が悪く儲からない企業では導入すら
できませんが、効率の悪さではなく、むしろ企業に高い成長性
があるから必要になる機能なのです。
ソニー子会社時代のジョブローテーションとは、成長性が高く
人が足りないから、優秀な人材を次々に繰り出すミサイル型人
事制度でした。
このような高い成長性によって、ジョブローテーションがなけ
れば企業は成長できないのです。
私が在籍していたある中小企業で、なにを思ったか社長が、突
然ジョブローテーションをやったところ、仕事がまわらず1か
月ほどで社員を元の部署へ戻しました。成長性がない企業では
社員に仕事の根が張ってしまっています。究極のジョブ型でし
ょうか。
中小企業の経営では、ジョブローテーションではなく、いかに
自社の本業を成長させていくかを先ず考えて事業を進めること
です。
ちなみに、この企業は今でも存在していますが、業績は長期低
迷し、社員数も減少しているようです。
ジョブローテーションどころではないでしょう。