売上、利益、現預金の数年分の推移を見ていくと、もっとも問
題がある決算書は、売上と利益が横ばいなのに現預金が急速に
減っている場合です。
この手の決算書は、売上や利益を粉飾している可能性があるも
のです。売上や利益は、比較的簡単に粉飾できますが、現金や
預金は、そう簡単に粉飾できません。
結局、売上や利益をうまく誤魔化してはいるが、現預金で隠し
たシッポが見えている状態といえるでしょう。粉飾している企
業で業績が急に悪化している企業は、現預金の残高が急激に減
少していることが多いものです。業績が悪化すれば、その分お
金が会社から出ていくため、現金や預金に如実に表れます。
カネボウは、粉飾決算の典型例でしょうか。私も営業職時
代、カネボウの子会社社員が問屋でおこなう販売をみていまし
たが、実態がない粉飾の売上でした。しかも、商品を一旦問屋
に納品しますから、商品の出し入れだけでも物流コストがかか
ります。本来必要がない経費を支出しているのです。他のメー
カーの社員たちから嘲笑される状態でした。このような販売は、
見るも無残というほかありませんでした。
カネボウは 1 8 8 7 年創業の日本を代表する紡績会社でした。
戦前は、紡績業が日本の主力産業であり、日本産業の中心的な
会社でした。一時は経営の多角化で高い評価を得ていましたが、
カネボウは、 2 0 0 1 年に粉飾決算が発覚し、 2 003年に解散し
ました。
カネボウが会社破たんする直近 3年間の売上や利益は良好でし
た。しかし、現金や預金が急激に減っています。 2 000年 3月
期には、 1 2 8億円以上あった現金預金残高が、 2 0 0 3年3月
には 10分の 1以下の 12億円ほどになっています。
売上や利益に関して、粉飾決算をしていたことで良好に見せか
けていたようですが、現預金の減少については隠しようがなか
った思われます。企業の業績悪化の兆しは、現預金に表れてい
ました。
企業の経営実態は現預金をみることで浮かび上がってくること
が多くあります。ちなみに、カネボウだけに限りませんが、粉
飾決算を見抜く会計の専門家はそれほどいません。様々な分析
比率をもちいても企業経営の本質を見抜くことはむずかしいも
のがあります。