同族企業は脱税しやすいと言った人がいたが、その点で参考に
なる事件が過去にあった。
2008年に明るみになったビックカメラの粉飾事件だ。
事件の内容は、ビックカメラが、まず特別目的会社を作り、ビ
ックカメラが所有していた土地の売買などを行った。ビックカ
メラは、自社の土地をこの特別目的会社に290億円で売却し、
それを311億円で買い戻している。特別目的会社は、21億円の
売却益を得たのちに、解散したことになっていた。
この特別目的会社は、解散したことでビックカメラに清算配当
金として49億円を戻したうえ、ビックカメラがこの配当金を利
益に計上した。
この問題点は、「ビックカメラが自社で金の出し入れをしただ
けであり、単にそれを売上に計上し売上額を大きくしたこと」
にあった。
特別目的会社というのは、ビックカメラが出資して作った会社
なのだから、この会社は、いわばビックカメラの分身だ。
この特別目的会社から金を受領して、それは自社の金が戻って
きたにすぎない。
出資したときのお金は、事業の損益に関係しない。どこかに出
資しておいて、後で、そのお金を売上として回収すれば、簡単
に粉飾決算ができる。
仮に、A氏はB社という会社を作るために、1億円出資した場合、
この1億円は、A氏の事業の損益とは関係がなく、A氏の事業経
費にならない。
その後、このB社に、A氏が1億円の売買をおこなったとするれ
ば、B社からA氏に1億円が支払われる。その結果、A氏の事業
の売上に1億円が計上される。
金の流れから見れば、これは単にA氏がB社に出した1億円が戻
ってきたにすぎない。
商取引をするだけのことで、A氏が出した1億円が、A氏の事業
の売上に計上されることになる。
ビックカメラは、このような取引をおこなっていた。ビックカ
メラは、自社が金を出して特別目的会社を作り、その会社が解
散したので金が戻ってきただけだったが、この金を利益に計上
した。
解散したときの清算配当金は、利益に計上できるというルール
があったため、これを悪用した。
ビックカメラは、この時期、東証上場を控えていたが、この粉
飾決算書で東証一部上場を果たし、当時の会長は持ち株の売却
により60億円の収入を得ていた。
その後、この粉飾取引が発覚したが、証券取引等監視委員会の
出した結論は、法人としてのビックカメラに課徴金約2億5000
万円、元会長の新井隆司氏には課徴金約1億2000万円で済んだ。
意外に軽い処分だった。東京証券取引所も一旦は、上場廃止を
検討する監理銘柄に指定したが、後に解除した。
とかく経営者というものは、悪いことをしたがるものだ。この
点は、多くの株主はよく監視しておくことが必要だが、大半の
株主は金儲けのために株の売買を繰り返す。だが、経営者をみ
ておかなければ、株主は痛い目に合うことになる。