中小企業の経営者は、だいたい解雇を簡単にできると考えてい
ました。これまでの経験で問題なく、うまく解雇してきた経験
がそのような考え方の根拠になっていたようです。
ところが一旦トラブルになると、経営者が置かれた状況は一変
します。私に言わせれば、単に運が良かっただけです。
労働契約関係については、労働基準法が制定される前から、そ
もそも民法が規律していました。
売買や賃貸借と同様に、「雇用」に関する規定が置かれていま
す。労働基準法や労働契約法などが規定されたのなぜか。結論
から言えば、新たな法規制が必要になり、旧民法の規定が使え
なくなったからです。
民法は、戦後、日本国憲法が作られ、民法改正がおこなわれま
したが、憲法には「平等原則」という規定があり、不合理な差
別が禁止されています。旧民法では、たとえば相続は全部長男
が持っていく戸主単独相続などという規定がありました。この
ままの規定では憲法違反になってしまいます。
民法の前提は「国民はみな平等」であり、これが民法の世界観
の中心です。強いも弱いもなく、偉いも偉くないもないのです。
ところが、強者と弱者がいる世界では、法律が強者を抑えてい
かないと、強者の一人勝ちになってしまいます。簡単に弱者を
守ることができません。
他方、みな平等という前提に立つと、法が介入する必要性はな
く、基本的に国民が自由にやってください、ということになり
ます。これが、民法の基本原理の一つである「私的自治の原則」
と呼ばれる考え方です。
雇用契約においても、このような考え方に基づく規定がありま
す。会社は、いつでも労働者を解雇することができるというも
のです。解雇自由の原則と呼ばれます。まさに私的自治の典型
です。
ところがこれでは、経営者に対して力が弱い労働者はたまった
ものではありません。労働契約は労働者を支えている基本です。
労働者は、会社側の赴くままに自由に切られた(解雇)ら、労
働者の生活は成り立ちません。
そこで労働者を保護し、他方で使用者側を抑えるために別の法
律が必要になりました。これが 労働基準法労基法であり、労働
契約法になります。
解雇自由の原則に関しては、労働契約法が、解雇権濫用法理を
定め、会社側に解雇する権利はあるが 、一定の要件が満たされ
ないと解雇は権利の濫用として無効であるとしています。
具体的に言えば「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会
通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用した
ものとして、無効とする」というのが労働契約法の 16条の規定
です。解雇は、客観的に合理的理由がなければならず、さらに
社会通念上相当な事由があって、しかも解雇が重すぎないとい
える場合でなければならないということになっています。
この点では、私が知る限りの中小企業経営者は、私が現役当時、
簡単に解雇をしていました。問題にならなかったのは、解雇さ
れた労働者が問題にすることなく、次の就職先をみつけたりし
ていたからです。私もその一人でしたが、このような経営者を
相手にしているよりも、次の企業で働くことを選択していたか
らです。
しかし、対応を一つ間違えると、解雇から労働組合が結成され、
このことだけが理由ではありませんが、倒産した企業がありま
した。経営者にとっては、解雇を選択した場合、このような最
大限のリスクを検討して、解雇することが求められます。
後の祭りにならないように。。。