人事権が法的(諸規程によって)にある場合であっても、出向
命令には、権利の濫用とならないことが必要です。形式上権利
がある場合でも、出向命令を行使することにより従業員に重大
な不利益が生じ得るときには、それを理由として出向命令等を
認めないということになります。従業員側が被る不利益と企業
側がおこなう命令を比較衡量して判断し、従業員側の不利益が
大きければ、会社側の出向命令は権利濫用とされます。
私が経験したなかでは、出向でありませんでしたが、転勤命令
をおこなった従業員に重篤な病気となっていた子供さんがいた
ため、転勤命令(内示)を解除したケースがありました。この
ケースで無理な転勤を命じて、仮に、訴訟等になれば、会社側
が敗訴したでしょう。
人事担当者は、このような従業員のプライベートに関しても情
報収集しておく必要があります。
労働契約というのは長期に及ぶ継続的契約であり、その間には、
いろいろなことが起こります。働く側からすれば、各人のプラ
イベートな事情があり、このようなタイミングでの異動は困る
といったことがあります。そのため命令を発する時点で 、従業
員のその時点の状況を踏まえて 、労働者に過度な不利益を与え
ることがないかどうかをチェツクします。
労働契約法にも規定が置かれており、出向命令が「その必要性、
対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権
利を濫用したものと認められる場合」には、命令が無効になる
と定められています 。( 労働契約法第14条 )
たとえば、グループ企業内の人事交流、関連団体への出向など
は認められやすく、関連のない他企業に出向させる場合には、
余剰人員の整理などの目的でおこなうことがあり、労働者の不
利益が大きくなれば、強制的に行うことはむずかしくなります。
規程があれば、なんでもおこなってよいということではありま
せん。中小企業では、このような点でも従業員へ配慮などがな
く異動をおこなっているケースがありますが、十分注意が必要
です。