転籍とは、従来の雇用先企業からの命令に基づき、別の企業に
移籍することです。現在の企業との労働契約を終了し、別の企
業との労働契約を締結する人事異動です。このため従来の使用
者との契約関係はなくなり、他企業との労働契約関係に入るこ
とになります。従来の使用者との雇用契約関係がなくなる点で
出向とはまったく違います。労働者には、極めて重大な影響が
及びます。
転籍ですが、出向同様に企業から一方的な命令でできるかどう
が問題となります。その本質は、出向とは異なり、従来の企業
との雇用契約がなくなります。仮に、このような企業による一
方的な命令でおこなえるとすれば、企業は簡単に人員整理をお
こなうことが可能となります。このように極めて重大な影響が
労働者に及ぶ場合、企業(使用者)が労働者に転籍を命じるこ
とが可能なときは、あくまでも労働者の個別の同意が必要とな
ります。
民法 6 2 5条では「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その
権利を第三者に譲り渡すことができない」とされており、企業
が一方的に命じることができないとされています。
就業規則上「転籍することがあり得る」とされ、それを承知し
て入社したようなケースにおいても、使用者が一方的に労働者
に対して転籍を命じることはできません。
判例の中には、一定の条件の下、入社時などに事前の包括的同
意があったとして転籍命令の拘束力を認めたものがあります 。
(日立精機事件 )
ただし、このケースはグループ企業内の例であり、極めて特殊
なケースと考えられています。
私が在籍していたソニー子会社の場合、海外赴任する場合は、
ソニー(株)へ転籍していましたが、海外赴任後の雇用管理は
ソニーが対応していました。
もちろん、子会社側でも、業務関係など、仕事に関することや
日常生活全般、家族の転居や一時的な渡航などがあれば必要な
サポートをおこなっていました。
グループ会社間では、必要に応じて積極的に転籍をおこなうこ
とがりますが、それ以外の場合、あきらかに労働契約上の身分
が変わりますから、労働者からの確実な同意はマストです。