配転命令には権利濫用にならないことが求められます。配転
命令権の根拠が契約上認められていたとしても、最終的に命
令が有効だと認められるためには、命令が権利濫用とならな
いことが必要になります。
(東亜ペイント事件)
契約の範囲内ということは、いわば双方の合意の範囲内なの
ですから、それだけで命令できるように考えますが、労働契
約というものは非常に長期にわたって継続され、その過程で
は、労働者の生活状況が大きく変わることもあります。
「子供が病気入院したとき」ということもあり得ます。その
ため業務上の配転をおこなう必要がある場合、労働者に与え
る不利益があれば、企業側と比較衡量し、労働者の不利益の
ほうが大きくなれば、配転命令は権利の乱用とされてしまい
ます。
東亜ペイント事件で示された判断では、他の不当な動機・目
的をもってなされたものであるとき、さらに労働者に対し通
常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであ
るときには命令が権利濫用として無効となり得るとされまし
た。
一般的に配転命令は「労働力の適正配置、業務の能率増進、
労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など」
の観点から企業の合理的運営に寄与するといえる限りは、業
務上の必要性があるとされています。
通常の場合、問題となるの「通常甘受すべき程度を著しく超
える不利益」があるかどうかです。たとえば、重病の父や病
弱な母の面倒を見ている労働者に対しておこなう本社か支社
への配転を無効としたケースがあります。
なかには労働者が単身赴任となることの不利益が問題となっ
たケースもあります。(帝国臓器製薬事件)
この判例では「会社及び労働者が右不利益を軽減、回避する
ためにそれぞれ採った措置の有無や内容など諸般の状況の下
で、被告会社の業務上の必要性の程度に比し、労働者の受け
る不利益が社会通念上甘受すべき程度を著しく超えるものと
認められることを要する」とされており、企業の側で労働者
の不利益を回避したり、軽減すべき義務があるとしています。
実務では、労働者の個別の実情を判断しながら配転をおこな
いますが、余程の理由がない限り配転命令に従って異動をお
こなっていました。個別の諸事情ばかりを斟酌していては、
配転そのものが成立しないからです。
私の経験では、とくに大手企業の配転命令は、厳しいものが
ありました。