何度も書いてきましたが、日本の大手企業における監査は、会
計監査だと思っているところに多くの問題が発生します。監査
とは、極論すれば人間を見張ることです。人間を性悪説に立っ
て監督するのが監査です。
フジテレビの事件を考えていたところ、次のコメントに出会い
ました。私は、高岡さんが言われている通りだ、と思っていま
す。ソニー子会社時代に実行されてきた監査と同様の対応だっ
たからです。
「フジテレビの企業体質は急には変わらない」ネスレ日本・元
社長が語るAERA DIGITAL(アエラデジタル)
日本社会は、その同質性から社員を性善説に立って管理するこ
とが当たり前とされてきました。会社は、家族などという幻想
に取りつかれた経営が長く続きました。もっとも、高度経済成
長が、この幻想を助長したことは否めません。
すべてが悪いわけではありませんが、こと企業経営の管理にお
いて性悪説(ソニーがそのように考えていたかはわかりません
が)に立って監査をやっていたと考えています。
業務遂行に関して私が知る限りですが、ソニー本社監査部の監
査対応では、厳しく指摘を受け、是正されてきました。
私は、以前在籍していた企業と、この点を比較していましたが、
まさに「月とすっぽん」という言葉がピッタリでした。
ソニー子会社時代は、会計監査、業務監査と仕事が忙しいなか
で徹底的におこなわれました。
それは私の人生観が変わるくらいのことでした。
実際変わったからこそ、ソニー子会社時代に学んだ監査の観点
でコメントが書けます。
実効性ある監査がおこなわれている企業では、こんなに厳しく
指摘を受けるのだ、と。
私の短いソニー子会社時代でさへ、3回ほど監査を受けました。
現場部門では、抜き打ちで業務監査がおこなわれていました。
その都度、監査部の担当者から仕事のやり方を指摘され、改善
し、報告書を提出しました。
当時の社長は、ただありのままを話せ、というだけでした。
私のような馬鹿には、よく理解できる言葉でした。
私は、転職者であり、しかもストレートな話しかできません。
上司の顔色をみたり、社内の空気を読むことが、そもそもでき
ません。もっとも、ソニー子会社時代、社内で上司の顔色をみ
たり、社内の空気を読んだりする必要はありませんでした。
いつもありのままにストレートな会話ができる環境があったか
らです。たとえ、社長であっても同様でした。
もちろん、監査のときも、ありのまま業務に関する話をしまし
た。社長からは、それでよい、と言われました。
後は、監査報告書を待つことになる、と話していました。
現場も大変でした。
忙しいさなかに、抜き打ちで業務監査がおこなわれるのでした、
仕事を休んでなどと言っておれません。
管理職は、自らスケジュール調整をおこないながら監査に対応
していました。現場の対応も同じように、ありにままを話して
いくだけです。当然、業務の進め方に関して多くの指摘があっ
たようでした。こちらもすぐに改善し、指摘された事項につい
て、現場担当者から監査部へ報告をおこないます。
また、社内でなにか問題があれば、社長と役員、そして私がい
た総務部の上司は、必ず打ち合わせをおこなっていました。
むずかしい問題になれば、ソニー本社の担当部門と綿密なすり
合わせをおこない結論を出していました。当然、打ち合わせな
内容は、議事録に残されます。この点を監査で、さらに指摘を
受けることになります。
当該、役員や従業員が出した結論を、さらにチェックするので
す。このことによって、問題が発生したときの対応に関して、
適正な牽制がかかるようになっていました。
今般のフジテレビの事件では、このような事件に関して、それ
ぞれの責任者が集まって適正な結論を出すプロセスもありませ
んから、監査対象にすらならなかったでしょう。
このような問題があれば、本来であれば、役員、コンプライア
ンス部門、あるいは顧問弁護士を入れて検討すべきですが、役
員間でネゴっただけの対応だったのです。
会社の業務執行ラインに基づく判断ではなく、役員個人の判断
で問題に対応したことになります。
この経営者は、経営の執行業務をしていなかった、ということ
です。このような大手企業は多く存在すると、私は考えていま
す。理由も簡単です。実際、私は、そのような対応をみてきま
したし、いたるところで不祥事の発生が続くからです。
高岡さんの話も参考になりますが、さらに経営の執行を監視す
る方法はあります。どの企業もやっていませが、監査において
も企業独自のやり方を検討する必要があります。
適正な監査が実行されないのは、経営者を筆頭に監査機能に関
して、なにも考えていないからです。
物事は、考えぬいて実行しなければなりません。
この点で、わが国の経営者は、考え抜くことを忘れている方が
多くいますから、このような問題はまだ続くことになるでしょ
う。いずれ、わが国の企業は、グローバル社会から忘れられた
存在になっていくのかもわかりません。
少なくとも監査においては、高岡さんの話が基本であり、監査
のスタートににおける最低ラインにすぎません。
経営執行を担う経営者は、そのことを自覚して高岡さんのコメ
ントを読んでいただきたいものです。
現在のわが国は問題大国ですが、考え方によっては、それは多
くのチャンスをもたらせてくれます。
問題は、示唆であり、未来を創造できる種です。
この国は、このままずるずると問題のアリ地獄へ進み社会機能
を麻痺させていくか、課題から立ち上がり、新たな未来を創造
できるかの瀬戸際に立っているようです。
その一方で、危機によって社会を転換してきた歴史をもつわが
国は、やっと未来への糸口が見えてきているのかもわかりませ
ん。
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